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「スマートグラスが当たり前になったら世界が変わる」 - 重力を感じるARの開発者

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2016.12.12ARインタビュー

こちらのトピックスではAR技術に関して先進的取り組みを行われている方々にインタビューし、ARの持つ魅力や可能性、その実例を語っていただきます。

初となる今回は皆さんご存じの明治製菓のチョコボールの箱を使った「キョロちゃんの遊べるAR」シリーズを開発している法政大学スマートマシンデザイン研究所(SMDLab)の岩月 正見教授にお話を伺いました。

「キョロちゃんの遊べるAR」シリーズを見る

画像「法政大学岩月教授」

「キョロちゃんの遊べるAR」

―― 「キョロちゃんの遊べるAR」について詳しく教えてください。

まずは動画を見てもらうのが一番早いでしょう。

うちあげ花火(キョロちゃんの遊べるAR III)

このようにスマートフォンを掲げつつ、チョコボールの箱をターゲットとして認識します。そして、その上でゲームが展開される仕組みです。特徴としてはスマートフォンを傾けるのではなく、チョコボールの箱を傾けてゲームをします。つまり、スマートフォンに搭載されている加速度センサーから得られる重力情報の方向をARマーカー側に変換することにより、常に現実の重力と同様の力がARオブジェクトに加わるようにしています。

この重力再現技術を応用して、ARオブジェクトの影を常に下方向にする技術を使って自然に見えるようにすることができます。通常、ARコンテンツはマーカーを傾けるとそれに追従して影が動いてしまうのですが、重力方向に対して光源の位置を固定することで、マーカーの傾きに関係なく、常に一定の方向から光が射すように制御することができます。

チョコボールについては現在第3弾がリリースされています。徐々にゲームとして複雑になっていますが、基本的に高さや傾きを使って遊ぶ仕組みは同じです。例えば第3弾は夏祭りをテーマにしていることもあり、ヨーヨーすくいができるようになっています。

これはスマートフォンを下げる(チョコボールの箱と近づける)と針のついた糸が下がっていって、ヨーヨーがすくえます。他にも打ち上げ花火や輪投げ、ワルキョロちゃんを探せといったゲームが楽しめます。

ヨーヨーつり(キョロちゃんの遊べるAR III)

よりインタラクティブに楽しめるARアプリ

―― ARアプリ開発で重視されている点を教えてください。

一般的にARというのはコンテンツを表示して終わります。そのため、一度目は面白いのですが2回目はない。飽きてしまうんですね。その点、ゲームであれば何回でも遊んで、徐々に上手になっていったりします。よりインタラクティブに楽しめるARを作っています。このアイディアを思いついた時に最初に作ったのがTekkyuARです。

TekkyuAR Demo

実際には単なる箱ですが、スマートフォンを通してみることで中に鉄球が入っているのがわかります。それを動かして、最後に土管の中に入れるというゲームです。

これはとても好評で、企業から声をかけてもらうきっかけになりました。エプソン社のMoverioのプロモーション動画の中でも使われていたりします。Moverioをつけていない人からみれば何を行っているのかさっぱりわからないと思いますが、その点も含めてARの面白さじゃないかと思います。

aMAZEing Maze Game Costume

 
学生が作った作品としては例えばKendamaARがあります。

KendamaAR Demo

動画を見るとわかりますが、マーカーを持って、手を動かすことでバーチャルなボールが上に飛び上がります。 追従性能の問題もあって、あまり早く動かすと認識できなくなってしまいますが、けん玉を持っていなくともマーカーだけあれば遊べるようになっています。

ARTetriCAN demo

こちらは同様に缶を手に持って行うARTetriCANという作品です。缶を傾けるとブロックが回転や移動、下に落ちてテトリスが楽しめます。 実際に物体を持ちつつ、それの傾きを認識することでゲームを遊べるのが特徴です。

最近の作品としてはAR玉転がし積み木アプリがあります。これはCuboro社の積み木を真似ていて、バーチャルな積み木を重ねていって、その中にビー玉を転がせるというものです。特にバーチャルにおけるブロックの積み上げをいかに自然行えるかどうかに工夫を凝らしていて、ブロックを積み上げようとすると、その積み上げ面とテーブル面を一致するようにブロック群を沈下させることにより、直感的に操作できます。

Ball Rolling Block App with Augmented Reality

教育分野におけるARのあり方

―― 教育分野でも岩月教授の作品をいくつか拝見しました。

教育向けとしては伝記とARを組み合わせた「名作よんでよんで」があります。これはARのキャラクターが文章の中に書かれている事柄についてクイズを出します。それに答えるというものです。特徴として、docomoが提供している音声認識、対話AI、音声合成APIを使っている点で、インターネットを介しながらも殆ど気にならない速度で対話ができるようになっています。

ARキャラ対話

あとは筆ペンの練習ができるアプリもあります。iPadを通して筆を動かさないといけないため、多少練習が必要になります。ただ、ARを使うことで情報量を増やしたり、アニメーションを使ったりして教育補助ができるようになっています。

3D筆使い

ほかにトミカ プラレール向けにARの線路と電車を走らせられるというARアプリを作ったり、ボールバウンドパズルという空間上に板を設置して物体の衝突と反発を体感できるアプリも開発しました。

ARプラレール

―― 教育においてもインタラクティブ性を重視されているように見えます。

ARによる学習コンテンツも増えてきていますが、やはり一度見て終わってしまうものが多いのではないでしょうか。それではもったいないです。ARならではの特徴として、現実空間との融合が挙げられます。そのために自分の手やマーカーを動かして、デジタルコンテンツを変化させたり、動かしたりできるのが大事ではないでしょうか。

私の授業やラボにおいても「ARである必要性」を常に考えるようにしています。ARだからこそできることだったり、ARでなければならない必要性が大事です。先に挙げたCuboro社の積み木は本物を買うと非常に高いです(3万円以上など)。そこでデジタルを使うことで手軽に体験できるようになったりします。

ARの開発方法とこれから

―― ARアプリの開発は何をお使いですか?

今はUnityを使っています。フレームワークは授業ではARToolKit、実際の開発ではVuforiaを使っています。理由としてはどちらも無料だからです。学業の中で使っているということもありますので、なるべく安価に済むようにしています。

UnityはARアプリを開発する環境としては最高だと感じています。特に我々のような「重力」が作用する仕組みを作ろうと思った場合、オブジェクト同士の干渉を計算処理しているととても大変です。それに対してUnityであればメニューから簡単に設定できます。3Dのモデリングも簡単で、モックアップを作って試してみるといったことも容易です。

―― iOS、Androidどちらの方が作りやすいですか?

iOSアプリはお金を払わなければならなかったのでAndroid派です。今ではiOSも無料で開発できますが、配ることができないのが難点です。また、大学で学生に対してWindowsパソコンを貸与していることもあり、WindowsでAndroid向けに開発するのが基本的なスタイルとなっています。

―― ARアプリは誰が作っているのでしょうか?

指揮は私ですが、実際に開発しているのは学生です。実際に世に出るアプリを学生自身が作っていますので、良い経験になっていると思います。市販製品のARアプリについては、3Dモデルやイラストは企業のデザイナーの方が作っていますが、ゲームとして遊ぶコードについてはすべて学生が作り上げています。

3Dモデルの作成は高価なツールが使えないことやデザインの面でARアプリ開発において高いハードルになっています。その土俵で勝負してもなかなか勝てません。そこで我々としてはKendamaARやARTetriCAN、AR玉転がし積み木アプリのようなアイディアで勝負できるところでARアプリを考えています。

今回のチョコボール第3弾のコンテンツについては企画から約3ヶ月で完成させました。どういったゲームにするか、どうARを組み合わせるかなどイチから考えていって、デザインも合わせて全体で3ヶ月で作り上げました。

―― 学生の方は卒業後もゲームに関わっているのでしょうか?

元々ゲームが好きということもありますしゲーム系の会社に入る学生が多いですね。ゲームを作るというのは根気のいる作業です。品質へのこだわりも必要です。ARを使ったゲームでも同じですが、そういった作業が好きだからこそゲーム開発に取り組んでいけるのだと思います。

―― VRについてはいかがでしょう?

VRはコンテンツが最も重要で、そのためには期間もお金も必要になってくると思います。ARは現実との繋ぎ込みが最も重要で、デジタルコンテンツと現実世界とをどう融合させるかというアイディアで勝負できます。大学などに向いているのはARだと思います。

―― 今後ARはどうなっていくでしょう?

いくつかの技術的なブレークスルーも見えてきています。ARグラスとしてはMicrosoft社のHololensやGoogle社が大きな投資をしてるMagic Leapなどが挙げられます。

Microsoft HoloLens - Transform your world with holograms

私は一人一台スマートグラスの世界がブレークスルーするポイントになると考えています。もしそうなれば、世の中のアプリの殆どがARアプリになるのではないでしょうか。机や椅子は変わらず必要でしょうが、その上の本やペンなどの道具は不要になってしまうと思います。 壁に絵をかけたりする必要もなくなり、テレビもなくなってしまうかも知れませんね。

Google Tango Demo Lenovo Tech World 2016

そして、もう一つは3D認識技術です。GoogleがProject Tangoを発表し、それを使ったスマートフォンが間もなく登場しようとしています。この技術によって、ARオブジェクトの配置がごく自然になるのではないでしょうか。

ARというのは意外と歴史が古く、1960年代には研究のはじまりが見て取れます。その後、ソニー社ではCyberCodeとして1990年代から研究が進められてきました。その頃はカメラの映像をリアルタイムに処理するためにはワークステーションのような大型なコンピュータが必要でした。

統合型 拡張現実感 技術 "SmartAR"

それから約20年が経ち、今ではスマートフォン一つでARに必要な要素がすべて揃っています。処理性能も全く問題ありません。とは言え、現在はスマートフォンやタブレットを掲げなければならないという問題がありますので、スマートグラスによって解決すると考えています。

まとめ

多忙の中、岩月教授には長い時間をいただきスマートマシンデザイン研究所の作品からARの魅力、未来まで幅広くお話を伺いました。多くのARアプリが情報発信系である中、スマートマシンデザイン研究所ではインタラクティブな、遊べるARアプリを開発しています。ARアプリの新しい使い方として参考になったのではないでしょうか。

スマートマシンデザイン研究所ではブログを公開しています。各種作品も掲載されていますのでぜひご覧ください。

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SMDLab スマートマシンデザイン研究所